核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

日独伊同盟と大本営発表の責任者、平出英夫

 そもそも、なんで日独「伊」三国同盟なのか。そう思った方は多いのではないかと思います。
 別にイタリアをおとしめるつもりはないのですが(戦争が強い弱いなんてのは、別に名誉でもありません)、1940年時点で日本とイタリアが同盟を組む利点というのはちょっと思いつきません。ムッソリーニについては詳しくないのですが、前に私が読んだ同盟直前のヒットラーあて書簡では「日本は信用できない」と書いていました。イタリア側が乗り気だったわけでもないようです。
 一方、日本側には確実に一名、イタリアとの同盟を主張していた人物がいました。元イタリア駐在武官の海軍大佐、平出英夫。彼はムッソリーニ率いるイタリアが古代ローマの如き版図を築き、ヒットラー率いるドイツと並ぶ大国となると、三国同盟成立以前から主張していました。
 
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  依然としてナチスの権威は高まる一方であります。(略)今や私共に認められるものは、英仏の敗戦であり、独伊の勝利であります。
   平出英夫 「欧州戦と伊太利」 (『経済倶楽部講談』 第二二輯 1940(昭和15)年))
 
  平出さんの明快なバスが僕をはつと我に返らせた。
 「(略)ヒットラームッソリーニは映画を利用してゐるといふより、国民とともにある政治を行つてゐるのだと思ふ。足が地についた政治なんだ。(略)今迄の政治家はさうではなかつたが、その点東條さん(首相)は立派だと思ふ」
   井戸川渉 『名士映画を語る』 前田書房 1942(昭和17)年
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 階級こそ海軍大佐ですが、大衆に訴える能力があると認められたらしく、太平洋戦争開戦後は大本営発表の担当者となり、誇大な戦果で国民をだまし続けました。保坂正康『大本営発表という権力』(講談社文庫 2008(平成20)年)は、平出の人物像を以下のように語っています。
 
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   大本営海軍報道部の平出英夫大佐は、第三百二回の発表の夜に、「海軍得意の差違へ戦法」と題してラジオで講演を行っている。ここで平出はミッドウェー海戦にふれながら、徹底した強がりをくり返す。(略)平出のこの言は、単に嘘というより、病的な虚言症に類する内容であった。
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 ・・・この人が戦犯でなかったら、いったい誰が戦犯なんだ。そう言いたくなりますが、彼は1948年に裁かれることなく病死しています。私が東京裁判に信を置かない理由の一つです。