核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

黒島伝治「反戦文学論」中の『ある青年の夢』評

 青空文庫様より引用。

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 武者小路実篤の「或る青年の夢」は、欧洲大戦当時に出た。これは、人道主義の戦争反対である。
この場合に於ても、死の恐怖、人間が、人間らしい生活が出来ない悲惨を強調している。ところがこゝでは個人よりも人類が主として問題になっている。戦争は、他国の文明を破壊し、他国を自国の属国にしようとするところから起って来る。他国を属国とし、他国を征服すれば得をすると考える利己主義者があるから起って来るのだ。けれども、その利己主義が誰れであるか、それは考えていない。戦争をなくするには、人間が国家の立場で物を見ずに、人類の立場から物を見ることである。他国の文明をはなれては自国の文明が真の意味では存在出来ないというのが人類の意志である。人々は、人類の意志を尊重することを知らないからいかんのだ。人類の意志を無視する所から戦争は起る。国家主義が人類の意志に背く所に戦争は起る。これが「或る青年の夢」を貫く中心思想である。すべてが人類である。人類は、万物の霊長でほかの動物とは、種を異にする特別のものゝようである。
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 確かに「人類の意志」ですべてを片付けたがるのは武者小路の癖ですが、『ある青年の夢』一作に関する限りはそう単純化したものでもないと、今の私は思っています。