核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

『ある青年の夢』第三幕執筆中の武者小路実篤

 安全保障のジレンマ(?)に落ち込んだ武者小路実篤の苦悩。下級生との喧嘩がエスカレートして、ついに相手が刃物やピストルを持ちだした場面を書いている時の話です。

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 或る青年の夢は一場切りかけなかつた。しかもそれは第三幕の一場だ。第三幕は之でおはりだ。四幕、五幕は自分の今の力にあはないかとも思ふ。(略)
 そしてかう云ふ場合に、釈迦や耶蘇のやうな態度をとらずにうづまきの中におちこまず、しかも友達の生命を助ける道をうることがむづかしい。自分は今まではただ問題を与へてゐればすんだ。今後もより深い問題を与へれば、それでもいゝのだが、解決出来る処は解決したいと思つてゐる。殊に国家主義にたいする自分の考をはつきりしたいと思つてゐる。
 『白樺』「六号雑記」〔11・大正五年一〇月号〕 引用は小学館全集第三巻より
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 結局、『ある青年の夢』は、第四幕で「あとは皆で考へろ!」と打ち切りのような終わり方になり、国家主義に対する武者小路の考えがはっきり表明されることはありませんでした。が、問題を提起しただけでも、この時代では貴重な作品だと思います。