核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

『谷崎潤一郎全集 第六巻』(中央公論社 1958)の伊藤整による解説 その2

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 個人の自由を原則として成立した資本主義制度は、その確立とともに、組織化された経済力として人間を支配し、その考へ方を人工的に変化させ、人間を組織の奴隷とする危険が起つてゐたのである。そしてこの危険は、もつと新しい統制経済を行ふ共産主義社会においても必ず起り得るものであり、現代社会の本質にある組織の非人間性につながるものであつた。
 谷崎潤一郎はこの作品においてそれを諷刺してゐるやうに今の読者の目には見えるであらう。しかし、そのやうな図式的諷刺性はこの作者に縁のないものである。むしろ、作者はさういふ物語りを面白いと思つて書いたのであらう。しかし、面白いと思ふことは、その物語りの実質が人間性にとつて関係がある、といふ芸術家の判断である。面白さが人間生活の本質にかかはりがある時、それは結果として社会問題道徳問題に関係があることになる。作者の面白がつた面と吉野作造の面白がつた面とは、真実といふ楯の両面であつたのだ。
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 ……後半には特に強く同意します。面白いということは重要です。