以前、TRPG関係の記事で、偶然とは多元的決定なのではとか書きましたが、その程度のことはとっくに漱石の『明暗』に書かれていました。
私は二十数年前の修士論文執筆時、『明暗』を隅々まで熟読したはずなのですが、きれいに忘れていました。以下、青空文庫より。
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彼は二三日前ある友達から聞いたポアンカレーの話を思い出した。彼のために「偶然」の意味を説明してくれたその友達は彼に向ってこう云った。
「だから君、普通世間で偶然だ偶然だという、いわゆる偶然の出来事というのは、ポアンカレーの説によると、原因があまりに複雑過ぎてちょっと見当がつかない時に云うのだね。
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偶然の背後に天意とか神意を想像するよりは、見えざる無数の原因の交差として偶然をとらえるほうが、私の指向に合っているようです。