核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

岩井克人『貨幣論』(ちくま学芸文庫 一九九八)をめぐって

 一八八二年の村井弦斎も言っていたように、経済学は大事です。

 間違った経済学に基づく国策は、貧困どころか飢餓を招きます。大江健三郎が賞賛した一九六〇年中国の、毛沢東マルクス経済学に基づくと称して実行した大躍進政策が、1000万人以上の餓死者を出したように。

 そんなわけで、もう少しマルクスへの批判的検討を続けます。経済学の方面からも。

 で、岩井克人貨幣論』を読み返したわけですが。どうもマルクスに寄り添いすぎ、メンガー新古典派近代経済学)を軽視しすぎているように思われます。

 私は経済学のゼミや講義に出たことはありませんが、谷崎潤一郎小さな王国」論を書いた際、マルクス経済学と近代経済学貨幣論を一通り学びました。マルクスが『資本論』冒頭で提示した貨幣論は、メンガーによって乗り越えられた、と私は読みました。

 向坂逸郎資本論入門』という本は、マルクス資本論』を絶対視して谷崎「小さな王国」をおままごと扱いしていたわけですが、話は逆です。「小さな王国」は新古典派経済学に照らして読まれるべきであり、『資本論』はおままごとさえまともに説明できない経済学なのです。

 話を岩井『貨幣論』に戻します。岩井氏は独断的で循環論法だらけな『資本論』を、なんとか新古典派的に読んで救済しようとし、マルクスメンガーの相似を指摘しています(一〇八~一〇九頁)。これには賛成できません。

 じゃあ、マルクス派の人たちは岩井著を喜んだのかというと、そんなこともなくて。

 CiNiiで検索すると、マルクスを絶対視して、岩井著をブルジョア経済学(懐かしい響きだなおい)だと批判する論文がいくつも見受けられます。ポテトチップスで100円は買えませんに言及している論文もありましたが、どうもあのCMさえ誤読しているようです。あれは『資本論』の価値形態論への、根本的な批判として視聴されるべきなのです。

 マルクスにどっぷりつかった論者は21世紀になっても存在し続け、マルクス資本論』を読み返す式の本は大々的に宣伝され続けています。一方、メンガー近代経済学者は一般的には名前すら知られず、彼らがすでにマルクスを超えていることも知られないままです。せめて当ブログだけでも、近代経済学の側に立たねば。