核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

当時者同士の決闘による戦争回避の例―ホメロス『イリアス』より

 君主、あるいは最高責任者同士が決闘でかたをつけてくれれば、犠牲者は少なくて済むのでは。そういう思想は、少なくとも古代ギリシア時代には存在しました。
 アカイア勢とトロイエ勢の戦争を描いた、ホメロス叙事詩イリアス。まずテルシテスという一兵卒が、アカイア勢の総大将アガメムノンを罵倒します。
 
   ※
 「アトレウスの子よ、一体なにがまだ不足だというので、またしても苦情を並べておられるのか。(略。アガメムノンの暴君ぶりを罵った後、今度は兵士たちに向かって)なんとしても船に乗って故国へ帰り、この男(アガメムノン)はトロイエの地に置き去りにして、己の分け前を貪らしておこうではないか。そこで初めてこの男も、われら兵卒ですら彼にとってなんらかの役に立つのか立たぬのかを悟ることであろうよ」
 松平千秋訳 『イリアス(上)』 第二歌 53~54ページ 岩波文庫 1992
   ※
 
 テルシテスは殴られて引き下がりますが、翌日の戦いではトロイエ勢の総大将ヘクトルが、決闘による解決を提案します。そもそもこのトロイ戦争は、アガメムノンの弟メネラオスの妻ヘレネを、ヘクトルの弟アレクサンドロス(別名パリス)がさらったことから起きたわけですが、
 
   ※
 「トロイエ勢も、脛当美々しきアカイア勢もよく聞け。そもそもこの争いを起した当の本人アレクサンドロスがこのように申し出ている。すなわち、トロイエ勢とアカイア全軍とは、その見事な武器を、ものみなを養う大地に置き、自分は両軍の対峙する間においてアレスの寵児メネラオスとふたりだけで、ヘレネならびに全財産を賭けて一騎討の勝負をしたいといっている」
 第三歌 91ページ
   ※
 
 結局、この決闘は邪魔が入って流れるのですが、長いので今回は省略します。
 以上は伝説であって、歴史的事実に基づいているという保証はありません。ただ、戦争に替えるに決闘をもってしようという思想が存在した証拠にはなるかと思います。