1528年版の『対話集』に収録された「カロン」より。なお、前回の「魚食い」は1526年版とのことです。
「地球上の三人の大君主が憎み合って(訳注によればフランス王フランソワ一世、ドイツ皇帝兼スペイン王カール五世、イギリス王ヘンリー八世の三人)、お互いの破滅目ざして突進しているんだそうな。キリスト教を奉ずる地方で戦争の嵐をまぬがれている所は一つもない」(274ページ)という時代。
そのうわさを聞いた冥界の渡し守カロンが、新たに訪れる亡者のための船を買う相談を始める、という設定の対談です。
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カロン しかしねえ、(略)上の世界にはポリュグラフスとかいう男がいて、絶えずそのペンで戦争を批判し、平和の回復を呼びかけているんだそうな。
アラストール あいつはもうだいぶ前から聾の耳もとで歌い続けているのさ。以前にも『迫害される平和神の慨(なげ)き』という本を書いたんだが、現在は死せる平和の墓碑銘を創っているぜ」。
(274~275ページ)
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2013年の日本は、エラスムスの時代よりは平和主義者にとって好ましい時代なのでしょう。今のところは。