著者は日系ハワイ3世の日本研究家。「推薦のことば」に「新渡戸の肖像が新五千円札に使われることが決まり」とあるのがちょっと時代を感じさせます。樋口一葉の前任者、あの丸メガネ氏をご記憶でしょうか。
以下は第4章「栄達 1897-1906(明治30-39)より。稲造と、彼と同じくクエーカー教徒(非暴力主義を奉ずるキリスト教の宗派)であったメアリー夫人の戦争観について。
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日清戦争のときは、稲造もメアリーも沈黙を守った。好戦的愛国主義の主張がまかり通っている中で、戦争反対の平和主義をいくら唱えても全く用をなさないと彼は言った。彼は戦争について何一つ意見を述べず、日本の立場を弁護することも、クエーカー教徒であるアメリカの親類に問題点をはっきり説明することもしなかった。彼とメアリーは、北海道の赤十字社などの組織を支援することに専念し、医療品や前線の兵士への慰問品を購入する基金集めの運動に参加した。
(略。そして日露戦争では)
稲造の戦争に対する意見はその後の十年間で劇的に変化する。ロシア軍との交戦が始まったとき、彼のとるべき態度は決まっていた。日本は正義の戦いをしているのである。この戦争は国の命運をかけた必要悪の戦いであると。
(92ページ)
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…内村鑑三はメアリー夫人に「徹底的平和主義たちの苦闘に深いご理解を賜りますよう」との手紙を出していますが、メアリーも稲造も賛同しませんでした。
どうも「英米本位の平和主義」という言葉が浮かんで仕方がないのですが、批判するのはせめて新渡戸自身の文章を読み込んでからにします。