核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

[エラスムス 『対話集』(『世界の名著 17 エラスムス トマス・モア』中央公論社 1969 より)

 『痴愚神礼讃』よりも『対話集』の方が面白そうなので、こちらから先に読んでみました。以下、これはと思った箇所を引用。
 
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 肉屋 せんだっての話だがね。ばかでかい画布に描いた世界全図を見たんだ。それでおれもはた(傍点)と悟ったねえ、誠心誠意こめてキリスト様を崇めたてまつっている地域が、この世界のなかで、なんとまあちっぽけな部分かってえことだ。ヨーロッパの西のほうの一部分、こりゃあたりまえだが、それに北のほうの一部と、三番目は南のほうに遠く離れ、四番目は東のほうでポーランドがそのいちばんはずれとみたな。
 (293ページ)
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 訳注によると、「このような感想は、新大陸発見わずかそこそこの当時の文学には、きわめてまれのように思われる」とのことです。
 この「魚食い」という対話は、肉食禁止の戒律をめぐって、肉屋と魚屋が難しげな神学論争を戦わす話です。基本的にキリスト教(それもカトリック)の枠の中での議論なのですが、上記の意見に続いて、「原初の時代にはこんな戒律などなくても世界は救われた」とも書いています。
 百年後のデカルトでさえ、キリスト教的な神の観念を人類共通のようにみなしていたことを思えば、キリスト教世界を世界の「ちっぽけな部分」とみなす視点はエラスムス独自といえるでしょう。
 ただ、残念ながら、(ひそかに期待していた)動物の魂についての議論は、少なくともこの対話にはありませんでした。それはそれ、これはこれということで。