核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

古代ギリシア

「ナイトランド・クォータリー」Vol.32内容紹介 アルキビアデスは鳥王国の夢を見るか?/大岡淳 予告

ぴん、とくる記事名を見つけました。 「鳥」「王国」とくれば、古代アテネの喜劇作家アリストパネースによる「鳥」。 人間にそそのかされた鳥たちが独立を宣言し、ゼウスなどの神々にさえ逆らうようになる話です。 アリストパネース 『鳥』(紀元前414年…

ついプラトン『パイドン』を読了してしまいました

ソクラテス、マジで刑する五秒前。魂=音楽説とそれへの反論のとこだけ読むつもりだったのですが、勢いにつられて死刑執行場面まで読了しました。やっぱり古代ギリシア人の書いたものはどれも再読に値します。原点に立ち戻れます。 私はケベスよりも頑強なの…

私的死生観補遺

死刑執行直前のソクラテスを描いた、プラトンの対話篇『パイドン』で。 シミアスとケベスという弟子が、魂の不死説を語るソクラテスに、 「魂とは音楽のようなものであって、楽器(肉体)が壊れれば音楽(魂)も消滅するのではないでしょうか?」 と問いかけ…

プラトンとアリストテレスの悲劇観

古代ギリシアの哲学者二人の、対立する悲劇観。 プラトンは対話篇『国家』の第10巻で、いわゆる詩人追放論を展開しています。要約すると、悲劇がえがくような悲惨や不道徳は、観ると真似したくなるものであり、人を堕落させるからダメだという論旨です。 …

アルキビアデースとペリクレースの対話―多数者の専制をめぐって

クセノフォーン『ソークラテースの思い出』(岩波文庫 一九五三 原著は紀元前三八五年頃)より。 今回は長音あり表記で。『経国美談』よりも古い時代ですが、ヘージアスのモデルはアルキビアデースだという説もあり、まんざら無関係な話ではありません。 で…

『リューシストラテー』中の羊毛平和論

アリストパネス『リューシストラテー』(『女の平和』)のクライマックス場面。 ※ リューシストラテー そもそも戦争なんかする必要はありません。 先議委員 では他にどうやって我が身を守る。 リューシストラテー わたしたちがあなたたちを守ってあげます。 …

アリストパネス『テスモポリア祭を営む女たち』(『ギリシア喜劇全集3』岩波書店 二〇〇九)

別名『女だけの祭』。今回は反戦要素は薄く、ジェンダー論に特化した作品です。 エウリーピデース(実在の悲劇詩人。以下長音あり表記で)が登場します。女性描写に長けた作家として今日でも知られていますが、この劇中ではそれゆえに女性たちから恨みを買っ…

アリストパネス『プルートス』(紀元前三八八年 『ギリシア喜劇全集4』(岩波書店 二〇〇九)より)

アリストパネス最後の作品。 嘘つきや悪人が富み栄え、正直な善人が損をする、そんな社会。 富の神プルートスには見る目がないのではないか、といわけで、プルートスの眼を治療する計画を立てた主人公クレミュロス。その前に、貧乏の女神ペニアーが現れ、計…

アリストパネス『女の議会』(『ギリシア喜劇全集4』(岩波書店 二〇〇九)より)

男装した女性たちが大挙して民会を乗っ取り、合法的に女性の支配を定めてしまう物語。 ※ 次のことだけを考え、ただ支配させてみようではないか。 すなわち、第一に女性たちは母親であるがゆえに、兵士たちの安全を切望するという。第二に、食糧を生みの母親…

山路愛山のアルキビアデス評

明治大正の日本人は、あのアルキビアデスをどう見ていたか。何件か見つかりました。 山路愛山『東西六千年』(春陽堂 一九一六)より。 ※ (前半略 出自と長所短所を述べた後に) 彼の不謹慎なるや或る事を為さんとする時に法律を問はずして之を為し、己が目…

漱石『吾輩は猫である』中のアリストパネス

古代ギリシアネタが意外と多い同作品。主人と細君の会話で。 ※ 「いや、まだ飲む。一番長い字を教えてやろうか」 「ええ、そうしたら御飯ですよ」 「Archaiomelesidonophrunicherataと云う字だ」 「出鱈目でしょう」 「出鱈目なものか、希臘語だ」 (夏目漱…

塩野七生『ギリシア人の物語Ⅱ 民主政の成熟と崩壊』(新潮社 二〇一七) その3

読み返してみても、同書はアリストパネスを過小評価しすぎ、アルキビアデスを過大評価しすぎだと思うのです。 いくら戦闘能力と人間的魅力があったとしても、源義経に征夷大将軍がつとまるか?呂布に皇帝がつとまるか?と同じ理由で、アルキビアデスにアテネ…

塩野七生『ギリシア人の物語Ⅱ 民主政の成熟と崩壊』(新潮社 二〇一七) その2

同書後半の記述をもとに、民衆をそそのかして戦争を煽り立てた将軍の話でも書いてみようかと思います。 前半の主人公ペリクレス(アテネ民主政最盛期の将軍。パルテノン神殿を建てた人。当ブログでも扱いました)を父親代わりに育った、後半の主人公アルキビ…

なんで反戦劇なんてものがあるかっていうと

なんでアリストパネスは反戦劇を書かねばならなかったかっていうと。 反対側には、民衆をそそのかして戦争を煽り立てる将軍や政治家がいっぱいいたからでして。 明日はアルキビアデスの話でも書こうかと思います。ブログの制限字数におさまるかどうか。

アリストパネス『蜂』(紀元前四二二年 『ギリシア喜劇全集2』岩波書店 二〇〇八)

社会派。問題作。反戦だけにとどまらないアリストパネスの底力を見ました。 すっぽりと網で包まれた家が舞台。裁判道楽の老人ピロクレオーン(以下、長音あり表記で)が事あるごとに裁判に出たがるので、息子ブデリュクレオーンが閉じ込めたわけです。以下、…

アリストパネス『平和』再読その2

長いので引用はしませんが、平和到来で職を失った武器職人たちに、武器防具のリサイクル術を教える場面もありました。通常兵器の廃絶構想の最古の例かも。

アリストパネス『平和』再読

今回、これはと思った一行。 平和の女神エイレーネーを救うために、みんなで綱を引く場面で。 主戦派たちがさぼったり邪魔をしたりする中、 ※ トリュガイオス (ヘルメースに)でも、立派な方よ、ラコーニア人たちは雄々しく引いている。 (『ギリシア喜劇全…

平和は十二日後に訪れた。

喜劇『平和』は平和条約の前後どちらに上演され、賛否いずれの立場だったのか。解決しました。 『世界の名著 5 ヘロドトス トゥキュディデス』(中央公論社 一九七〇)より。 ※ 〔二〇〕この平和条約が成立したのは冬も終わり春に入ったころ、アテナイでは…

塩野七生『ギリシア人の物語Ⅱ 民主政の成熟と崩壊』(新潮社 二〇一七) その1

成熟の人ペリクレスと、崩壊の人アルキビアデスを扱った第二巻。今回はそのどちらでもなく、アリストファーネス(塩野著ではこの表記)の喜劇『平和』の扱いについて。 ※ この「平和」(引用者注 ニキアスがスパルタと結んだ平和条約)を酷評したアテネの知…

塩野七生『ギリシア人の物語Ⅲ 新しき力』(新潮社 二〇一七)

当ブログがかつて集中的に追ってきた無神論者で独裁者のクリティアスや、矢野龍渓『経国美談』で日本に知られたテーベの覇者エパミノンダス。そのあたりがどう書かれているかと読んでみたのですが、二人ともわりと簡単に片づけられてました。リーダーシップ…

アリストテレース『詩学』 より 『オデュッセイア』の筋書

古代ギリシアの叙事詩『オデュッセイア』といえば、岩波文庫でも上下二巻の大作なのですが。 アリストテレースが簡潔にまとめてくれました。 ※ じじつ、『オデュッセイア』の筋書は長くはない。 ある男が長年家を留守にしていた。彼はポセイドーン(訳注16…

当時者同士の決闘による戦争回避の例―ホメロス『イリアス』より

君主、あるいは最高責任者同士が決闘でかたをつけてくれれば、犠牲者は少なくて済むのでは。そういう思想は、少なくとも古代ギリシア時代には存在しました。 アカイア勢とトロイエ勢の戦争を描いた、ホメロスの叙事詩イリアス。まずテルシテスという一兵卒が…

『プルタルコス英雄伝(上)』「ペリクレス」―さらばペリクレス編

書きたい題材がたまってきたので、ペリクレス伝をひとまず終わらせます。 紀元前429年。息子二人を含む多くの人命を奪った疫病に、ついにペリクレスは感染します。 ※ ペリクレスの臨終が迫った時、市民の名士や友人でなお生き残っていた人々が彼のまわり…

『プルタルコス英雄伝(上)』「ペリクレス」―アスパシア編

結婚できない女=負け組という悪しき風潮に一石を投ずべく、ペリクレスの秘書兼愛人、アスパシアを紹介します。 ※ 彼女がミレトス(引用者注 イオニアの都市)出身でアクシオコスの娘だということは一般に認められている。(略)また、昔イオニアに出たタル…

アスパシア

さきほどギリシア(?)のニュースを見ていたら、「アスパシアさん」という若い女性がインタビューに答えていました。 結婚よりも政治参加を選んだ、ペリクレスの秘書アスパシア。やはり彼女の名にあやかったのでしょうか。 長文を打ち込んでもフリーズしな…

『プルタルコス英雄伝(上)』「ペリクレス」―アテナイの疫病編

トゥキュディデス(今回は長音なし表記。統一性がなくてすみません)とは違った視点の、プルタルコスによる紀元前429年疫病の記事を紹介します。 ※ 疫病の災難が降りかかり、年齢の点でも体力の点でも血気盛りの人々をなめ尽くした。人々はそのために身も…

トゥーキュディデース『歴史』における戦争下の人心荒廃

筑摩書房『世界古典文学全集 第11巻 トゥーキュディデース』(1971(昭和46)年。小西晴雄訳。 「人間の本性が同じであるかぎり、(略)過去に起きたことは将来にいつも起こるものである」(116ページ)という言は有名ですが、その続きはあまり知…

トゥーキュディデース『歴史』におけるアテーナイの疫病の記述

筑摩書房『世界古典文学全集 第11巻 トゥーキュディデース』(1971(昭和46)年)より、『歴史』(原著は紀元前432年から同411年ごろ)を紹介します。著者名は文献によってトゥキディデスだったりツキジデスだったりしますけど、今回は長音あ…

『プルタルコス英雄伝(上)』「ペリクレス」―ペリクレスの人となり編

「身体の格好は申し分なかったが、ただ頭だけは長過ぎて釣合が悪かった。そのため彼の彫像はほとんどすべて兜(かぶと)をかぶっている」(ちくま文庫『プルタルコス英雄伝(上)』「ペリクレス」262ページ)。 「ペリクレス」で画像検索していただいても…

『プルタルコス英雄伝(上)』「ペリクレス」―パルテノン神殿の材料と技術者編

内外の反対を押し切る形で着工されたアテナイの神殿。その材料と、関わった技術者について、プルタルコスは詳細に書き残しています。パルテノン神殿を建てたのはペリクレス一人ではないにしても、大工さんだけの仕事でもないのです。 ※ この際の材料は石、青…