核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

アリストパネス『テスモポリア祭を営む女たち』(『ギリシア喜劇全集3』岩波書店 二〇〇九)

 別名『女だけの祭』。今回は反戦要素は薄く、ジェンダー論に特化した作品です。

 エウリーピデース(実在の悲劇詩人。以下長音あり表記で)が登場します。女性描写に長けた作家として今日でも知られていますが、この劇中ではそれゆえに女性たちから恨みを買っているという設定で。
 女だけの祭テスモポリア祭で、エウリーピデース抹殺(!)が議されていると聞いた彼は、同業者のアガトーン(実在の人物。女性的な外見だったようです)に潜入を頼みます。
 断られたものの女装セットを借りだしたエウリーピデースは、自分の縁者(老年男性)を無理やりに女装させ、祭りに送り込みます。
 そこではエウリーピデースの露悪的な女性描写を非難する決議が行われています。縁者はなんとか弁護しようとしますが、発言のはしばしから男性であることがばれ、板に縛り付けられてしまいます。
 捕まった縁者がエウリーピデースの最新作『ヘレネー』を吟じると、それに応じてメネラーオス(ヘレネーの夫)のセリフを吟じながらエウリーピデースが現れます。次に二人は乙女アンドロメダーと英雄ペルセウスの(これも最新作)真似をしながら脱出しようとしますが失敗し、エウリーピデースは女性たちに今後いかなる悪口も書かないと約束して、縁者と共に退場していきます。

 ……第一のテーマは、「男性作家が女性を描くことの困難」といったあたりでしょうか。当人はリアルに描いたつもりでも、当の女性にしてみればセクシャルハラスメントにしか見えないこともあるわけで。
 第二のテーマは、その「ハラスメント」とは何か、だと思います。
 上記の「縁者」というキャラがとにかくセクハラおやじでして。アガトーンに対してはその女々しさをあざ笑い、祭りの女たちに対してはその雄々しさをあてこすって、最終的にひどい目にあうわけです。
 セクシャルハラスメントとは、ジェンダー以外に頼るもののない人間が、自分の権力(?)を再確認しようとする行為、といえるかもしれません。
 テーマから離れますが、縁者をつかまえに来た「弓兵」がいい味を出しています。当時のアテーナイには警察というものがなく、スキタイ人の弓兵が警官の役割をしていたのですが、その片言での縁者とのコミュニケーションぶりが、ジェンダー軸とはまた違った、とぼけた味を出していまして。
 アリストパネースにはずれなし。これで十一作品すべてを読みましたが、自信をもってそう言えます。