核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

遅塚麗水『蝦夷大王』の再審請求は取り下げます

 『蝦夷大王』も読んではみたのですが(そして、家のPCでも読めると知ったのですがw)、こちらは論文にはなりそうもないと判断しました。

 決して、アイヌを女性ジェンダー化して一方的にその悲劇を美化するだけの作品ではありません。作品全体を見ると、むしろアイヌ男性たちの勇猛な戦いぶりに比重が置かれています。アイヌ独立というヴィジョンを作品内で実現させてもいます。内藤千珠子氏の「蝦夷大王」批判に反論するだけなら、十分に可能です。

 ですが、全編を通して、異質な人間集団どうし、日本人(「しゃも」)とアイヌが平和に共存するにはどうしたらいいかといった、より大きなヴィジョンは欠けています。

 たぶん、そのあたりが遅塚麗水と村井弦斎の違いであり、最後まで平和主義者たり得なかった麗水の限界なのでしょう。

 そんなわけで、『蝦夷大王』読解は打ち切り、『水の月』論に力を集中したいと思います。こちらはアイヌは出てきませんが、差別問題は扱われています(残念ながら、今日の「政治的正しさ」にはそぐわない形で)。集団外を差別することによって集団を強化する「世間」の掟に、弦斎がいかに抗したか、見届けたいと思います。