核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

『プルタルコス英雄伝(上)』「ペリクレス」―ペリクレスの人となり編

  「身体の格好は申し分なかったが、ただ頭だけは長過ぎて釣合が悪かった。そのため彼の彫像はほとんどすべて兜(かぶと)をかぶっている」(ちくま文庫プルタルコス英雄伝(上)』「ペリクレス」262ページ)。
 「ペリクレス」で画像検索していただいても確認できるのですが、「ダガ・コ・トワル」のほうが手っ取り早いかもしれません。あの兜をかぶった彫像が、アテナイ全盛期の統治者ペリクレスなのです。
 外見の通り、「重厚な威厳と風格」を備えた政治家です。「軍隊では危険を好む勇敢な男」(267ページ)だったのですが、政治家に転じてからの民衆への態度は常に慎重でした。私的なパーティーには一切出席せず、一回だけどうしても断れない義理があった時は乾杯の直後に座を立ったそうです。
 金銭的にも清廉。将軍の地位にあること15年にして「自分の財産は父が遺してくれたものより一ドラクマたりとも殖やさなかった」そうです(283~284ページ)。1ドラクマは約6000円。
 平和主義者というわけではありませんが、無謀な侵略戦争には常に反対し、守りに徹する戦略をとる主義でした。
 エレアのゼノン(ゼノンのパラドックスの人。アキレウスは亀に追いつけないとか)の講義を聞き、アナクサゴラス(太陽は燃える石だと主張した自然哲学者)に学んだ知識人でもありました。日蝕におびえる部下に、外套をかざして「これとあれとどこが違う。日蝕の闇を作り出す物の方がこの外套より大きいというだけのことではないか」と言って鎮めたという話が伝わっています。
 こういう合理主義者が、どこまで本気で女神アテナとかを信仰していたのかは疑問ですが、少なくとも次世代のアルキビアデスやクリティアスとちがって、おおっぴらに無神論的な言をはくことはなかったようです。