核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

『プルタルコス英雄伝(上)』「ペリクレス」―アスパシア編

 結婚できない女=負け組という悪しき風潮に一石を投ずべく、ペリクレスの秘書兼愛人、アスパシアを紹介します。
 
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 彼女がミレトス(引用者注 イオニアの都市)出身でアクシオコスの娘だということは一般に認められている。(略)また、昔イオニアに出たタルゲリアという女の向うを張って、最も実力のある男たちを狙ったとも言われている。(略)アスパシアの方は、一部の人々によれば、政治をよく心得ている人であったためにペリクレスがこれに傾倒したとのことだ。実際、ソクラテスも弟子たちと一緒に彼女のところに通ったことがあるし、(略)プラトンの『メネクセネス』(二三五E)は初めの部分が戯謔(ぎぎゃく)的に書かれてはいるが、この女は弁論術を通して多数のアテナイ人と交わりをもつという評判であったとある点だけは史実性がある。(292~293ページ)
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 イオニアのタルゲリアさんという女性はペルシア帝国の国際スパイで、ギリシア諸国の有力者にハニートラップしまくった方だそうです。アスパシアの方はむしろ頭脳派で、ペリクレスの演説の原稿を書いてたとかいう話が上記プラトンの対話篇に伝わっています。
 
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 しかし、そうは言っても、ペリクレスのアスパシアに対する傾倒はむしろ一つの恋愛であったようだ。ペリクレスの(略)夫婦の間がおもしろくなくなり、ペリクレスは妻(引用者注 アスパシアではない正妻)もそう希望したので、彼女を他の男に嫁がせてやって、自分はアスパシアを引き取って殊のほかこれを愛した。毎日広場へ出かける時と戻って来た時に、彼女にキスの挨拶をしたそうだ。(293ページ)
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 じゃあなんで正式に結婚しなかったのかというと、ペリクレス自身が以前(紀元前451~450年)に制定した、「アテナイ人を両親として生れた者のみがアテナイ市民身分たるべし」という法律がありまして。5000人弱が市民資格を剥奪され、市民身分に留まった者は14040名だったとか(312ページ。貴重なデータです)。そういう法律を定めた政治家が、公然と外国人女性と再婚するわけにはいかなかったのでしょう。しかし。
 疫病で嫡子二人を失った際、ペリクレスは自分とアスパシアの間に生まれた子供に限って例外を求め、市民の同情を誘って入籍させています。ペロポネソス戦争を起こしてしまった件に比べれば小さなこととはいえ、ペリクレス晩年の失政といえるでしょう。
 政治家としてのアスパシアですけど、上記の演説原稿その他を見る限りでは平和主義者ではなかったようです。『女の平和』でおなじみ喜劇作家アリストパネスも、アスパシアがペリクレスをそそのかして戦争を起こさせた、と解釈できる一節を『アカルナイの人々』に残しています。
 なおウィキペディア等で検索すると、「おおおおーーーー!」な後世の想像画が出てきます。誰のいつごろの絵かは書いてないので、もしかしたらペルシア王子キュロスの侍女だったほうのアスパシアの可能性もあります。
 (しかし、なぜ変えるんだやつは。せっかく、「加藤友三郎が胸中をポロリ!」というギャグを思いついたのに)