核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

イソクラテス 「平和について」(紀元前355年)

 筑摩書房世界文学大系 63 ギリシア思想家集』(1965)69ページより。長坂公一訳。

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 そこで要するに、わたしはこう主張します。
 われわれは、キオス人、ロドス人、ビュザンチオン人に対してのみならず、全世界を相手に平和条約を取り結ばなければならない。そして用うべき条約は、(略)ペルシア大王ならびにラケダイモン人たちを相手に取り交わされ、ギリシア人諸国の自治独立たることや、駐留軍の他国都市からの引き揚げ、また各国民それぞれが己が都市を領有すべきことを宣明しているところの、あの条約でなければならないことです。
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 アテナイの弁論家イソクラテス(紀元前436~338年)の生涯と時代背景について。
 あのソクラテスとまぎらわしい名前ですけど、田中美知太郎氏の解説(391~392ページ)によりますと、それほど深い関係はなかったようです。影響を与えたのはむしろ、ソクラテスの論敵の一人、ソフィストゴルギアスだそうで。ソフィストを甘く見てはいけません。
 アリストパネスの一連の反戦劇を生で観ていてもおかしくない世代なのですが、その影響は不明です。
 アテナイ人でありながら、マケドニアのピリッポス(ギリシアを征服した異民族の王。その息子が「あの」アレクサンドロスです)寄りだったことを非難する人も多いのですが、上記の弁論を読む限りではそうした非難には同意できません。同じアテナイ人のデモステネスがイソクラテスを非愛国者呼ばわりするのはまだ理解できるけど、日本人の田中さんまでがそれに便乗する必要などないのです。
 ギリシア世界の長年の宿敵だったペルシアも含めて、「全世界を相手に平和条約を取り結ばなければならない」と公の場で主張したイソクラテスは、それまでのイオニアアテナイの平和主義者と比べても
画期的だったと思います。
 それにしても、堺利彦はなぜ最期に「すべての戦争に反対する」と言わなかったのか。惜しまれるところです。