核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

木下尚江 「露西亜が南の方」(仮題)

 以前に紹介した、早稲田大学文学学術院所蔵 木下尚江資料集(http://www.littera.waseda.ac.jp/kinoshita/index.html 92~96ページ)より、全集未収録文、「露西亜が南の方」(書き出しの一節であり、著者がつけた題名ではありません)を紹介します。
 全集未収録の未発表原稿というのは、当人もしくは編集者がボツにしたから未発表のはずなのですが・・・当人が自発的にボツにしたと思いたいところです。
 要約しますと、ロシア帝国の南下政策を「悪魔の心」「神権的君主独裁の権化」と呼び、同国から支那朝鮮(原文のまま)を守るために、日清戦争で得た権益をなげうってでも、「民主的」諸国(なぜか日本もその中に入れています)による「世界的排露同盟」を結成すべきだ、という趣旨です。「日露協商」(伊藤博文による、失敗した日露間交渉)や「新内閣」(第一次桂太郎内閣と思われます)などの語から、1901(明治34)年ごろの文と推定されます。
 軍備増強論とか、ましてや戦争是認論なんかは書いてありません。ですが、悪の君主国対正義の民主国という幼稚な図式は、当時の凡百の国家主義者の言論から一歩も出ていません。日露戦争期に絶対非戦論者となった木下尚江が書いたとは信じがたい文章なのですが、これは直筆原稿なのです。
 ずいぶん木下尚江の文章を読んできましたが、ここまで暗い気分になる文ははじめてです。生まれながらの絶対平和主義者などいないとはいえ、1901年という大事な時期(伊藤博文でさえ戦争回避に努力していたのです)に何をやっているのでしょうか。デモステネスのピリッポス弾劾演説のほうが、まだしも筋が通っています。
 個人レベルでなら、平和主義に転じるのに遅すぎることはない、と思います。しかし木下尚江に関していえば、その後の彼を評価すればこそ、当時の彼に苦言を呈したいと思うのです。