核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

幸徳秋水 「遠征」(予告)

 日清戦争期の新聞記者、幸徳伝次郎(秋水)が書いた短編小説。全集に収録されておらず、コピーも手元にないので、ひとまず予告のみ。
 
 (2021・10・28 9年の時を経てコピーが見つかりました。詳細は↓)
 
 主人公は兵士(「中国の男」と書かれていますが、文脈から判断して「中国地方」出身の日本人)。
 出征中にふと気がつくと、故郷の村に帰っています。しかし家族や知人からは歓迎されるどころか、「なぜ逃げてきた」と責められ、追い立てられます。はっと目が覚めて(夢オチですね)主人公は自分の里心を深く恥じ、翌日の戦闘で名誉の(?)戦死をとげるのです・・・・・・。
 これを反戦小説に分類する先行研究もありますが、後の日露戦争期に作者が非戦論者となったことから、過大な評価を与えているように思えてなりません。
 仮に「遠征」が作者不明だったとすれば、これはむしろ戦争に協力する小説としか読めないはずです。
 幸徳秋水といえど、デビュー当初から非戦論者だったわけでも、天皇制否定論者だったわけでもありませんでした。ましてや暗殺なんて手段は、少なくとも日露戦争後に渡米してアナーキストと知り合うまでは軽蔑していたはずです。
 私が研究している木下尚江は、日清戦争の頃から非戦論で共和主義者で非暴力主義者でしたが、彼といえども生まれた時からそうだったわけではありません。せいぜい「クロムウェルの木下」と呼ばれだした中学生ごろからです。
 幸徳秋水という人を「あの大逆事件の人」だけで片付けてしまうのは、思想家としての彼を理解したことにはならないと思うのです。