核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

メランコリイ嗜好、もしくは松本清張作品の美と癒し

 わざわざ研究会に行くほど、私は松本清張が好きなのか。今ではそうでもありませんが、一時期むさぼるように読んでいたのは確かです。
 ゲーム業界に「鬱ゲー」(プレイヤーを憂鬱な気分にさせるゲーム)というジャンルがありますが、かつての私にとって清張はそれに近い存在でした。
 あの狭く単調な人間観。代案やヴィジョンを決定的に欠いた、とことんネガティブな社会観。文学研究者としての私なら欠点とみなすであろうそれらが、一読者としての当時の私には魅惑的でした。快感というわけではありません。マゾヒスティックな快楽といったものではなく、純粋な絶望がもたらす美。
 ・・・たぶん今清張を読み返しても、あの頃に感じたのと同じ陶酔は味わえないでしょう。ただ、時おり無性にメランコリックな芸術作品にひたりたくなる嗜好はいまだに残っています。いつかは「気概とメランコリイ」といった論文を書きたいものです。いつかはばっかだな。