核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

村井弦斎『阿古屋及食道楽』(一九〇五(明治三八)年)より「阿古屋」

 アトランティスネタもつきたので(ディズニー映画『アトランティス 失われた帝国』は未見)、近代文学のブログにもどろうと思います。

 弦斎が日露戦争下で「軍国芝居」と銘打って上演した、『阿古屋及食道楽』。

 食道楽の歌舞伎化のほうは、舞台でお登和嬢役の尾上梅幸がシュークリームを焼き、上演後に観客に配るという趣向が話題を呼びました。

 もう一本の「阿古屋」は私はこれまで放置してたのですが、このたび読んでみました。福地桜痴が脚色に協力しているそうです。

 

 源平合戦の時代。平家方の武士、悪七兵衛景清(あくしちびょうえ かげきよ)と、その妻阿古屋が中心人物。

 屋島(作中では八嶋)の合戦を生き延びた景清は、源頼朝を暗殺するため、乞食に化けて単独行動を取ります。源氏の武士畠山重忠に阻まれて暗殺は果たせず、阿古屋の家に潜伏します。

 そこに源氏方の岩永らが現れ、阿古屋に景清の居所を尋問します。畠山は拷問ではなく、琴責(ことぜめ。琴を弾かせ音色に乱れがあれば嘘と判定する尋問法)を提案します。阿古屋は少しの乱れもなく、羽衣の曲を見事に弾ききり、畠山を感動させます。もう一人感動した景清も自首し、畠山に引き立てられていくのでした。

 

 私は古典芸能の景清ものにまったく無知なので、弦斎のこの劇がどの程度のレベルなのかはわかりません。が、末尾で安徳天皇が平家に守護されて生き延びたことにしてしまったり、どうも史実や伝承を都合良く改竄してしまっているようです。

 琴責めというアイディアは面白いのですが、これは弦斎の独創ではなく、歌舞伎十八番「景清」に原型があるようです。