核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

もし戦死者が一人もいない戦争があったら

 毎度おなじみバルバロイ様より、「無涙の勝」「泣かない戦」と呼ばれる挿話を引用させていただきます。
 
  Xenophon  "Hellenica"  第七巻第一章(人名以外の下線は引用者による)
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戦闘が終わって勝利牌を立てると、すぐさま家郷へ伝令官 デモテレスを派遣して、勝利の大きさとともに、戦死者はラケダイモン人たちに一人もなく、敵兵にはおびただしいと報告させた。じっさい、スパルテにある人たちはこれを聞いて、アゲシラオスを始めとして長老たちも監督官たちもみなが号泣したと伝えられている。はたして、それは、嬉しさのあまり、何か苦痛とも共通するような涙である。しかしながら、アルカディア人たちの運命に、ラケダイモン人たちに劣らずはるかに喜んだのは、テバイ人たちとエリス人たちとであった。それほどまでに、彼らの思い上がりに腹を立てるようになっていたのである。
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 ところで、テバイ人たちは引き続き、何とかしてヘラスの嚮導権を握ることを画策していたが、ペルシア人たちの大王のもとに使いを送れば、大王のところで何か儲けものがあろうと考えた〔BC 367〕。そういう次第で、ただちに同盟者たちに呼びかけて、ラケダイモン人の エウテュクレスも大王〔アルタクセルクセス2世〕のもとにいるとの口実のもと、テバイ人たちの中からは ペロピダスが、アルカディア人たちの中からは全格闘技の優勝者 アンティオコス(1)が、エリス人たちの中からは アルキダモス(3)が参内した。さらにアテナイ人たちもこれを耳にして、 ティマゴラスレオン(3)とを参上させた。
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彼らがかしこに着くと、ペロピダスがペルシアから大層大儲けをした。
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 ・・・両軍ともに戦死者ゼロではなく、片方だけゼロだったわけですね。残念。
 クセノフォンはスパルタ(スパルテ)びいきだとか言われることもありますが、レウクトラでの歴史的大敗なんかもごまかさずに書く歴史家ですので、この挿話も信用できるんじゃないかと思います。腐っても軍事大国スパルタ。スパルタ人の目にも涙。
 で、スパルタの宿敵テバイ(テーベ。斉武国)は何をやっていたのか。クセノフォンによればペロピダス(巴氏)はペルシア大王との外交に、エパメイノンダス(威氏)はアカイアへの出兵に赴いていたそうです。「喜んだ」はいいすぎにしても、アルカディアを救う気がなかったのは確かです。
 ちなみに矢野龍渓経国美談』では、「斉人は六万の兵を発したりしが是時巴氏は尚ほ北部に在り威氏は刑せられて服役中」のため敗れたとか書いてあります。英雄二人に損な役目をやらせたくないのはわかるけど、ペルシアはどう考えても「北部」ではないと思う・・・。