先ごろ、大江「氏の本では幸せな結婚をした女性があまりいないのが気になります」というコメントをいただきました。女性や結婚に限らず、そもそも大江健三郎の本で「幸せ」な印象を受ける作品自体があまりない、とは私もつねづね考えていました。その数少ない例外が、今回取り上げる『二百年の子供』です。
表紙の裏に「永い間、それもかつてなく楽しみに準備しての、私の唯一のファンタジーです」との著者の言葉があります。
主人公は、「三人組」と呼ばれる兄弟(兄姉弟)。と柴犬ベーコン。
真木 十六歳男子。絶対音感持ち。好きな言葉は「ながもち」。
あかり 小学六年生女子。好きな言葉は「あんぜん」。父の小説に書かれるのは嫌い。
朔(さく) 小学五年生男子。好きな言葉は「むいみ」。精神年齢高すぎ。
迷い犬になったベーコンを追って森に入った三人組は、江戸時代の村の子供指導者メイスケさんに会い、1864年から2064年の200年におよぶ、時間を超える冒険に出ます・・・。
『芽むしり仔撃ち』『万延元年のフットボール』『M/Tと森のフシギの物語』など、大江健三郎の一連の四国の森もの作品の集大成という印象を受けます。
(追記 万延元年は1860年なので含まないかもです。蜜三郎やスーパーマーケットの天皇出てこないし)
ファンタジーというには私小説要素が濃厚な気もしますが(読者が大江家の家族構成を知っているのが前提のようです)、幸せな気分にさせてくれる作品ではあります。タイムマシン冒険SFとしては無難すぎる気もしますけど。
ヒカ・・・いや真木の天然救世主っぷりも健在です。結末の(ネタバレ警報)「「私は、歩いて帰って来ました」発言には爆笑させてもらいました。ついに時間すら越えたか。
しかし、ほめるべき点もある作家です。『二百年の子供』は、『個人的な体験』『治療塔』に続き、私の中ではベスト3に入りました。