WGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)という陰謀論を、最近よく目にするようになりました。「戦争は罪悪である」という意見は、アメリカ占領軍によって日本人に植え付けられた洗脳であるという主張です。
どうも火元は文芸批評家の江藤淳らしいのですが、はたして江藤淳はそれほど信頼に足る著述家か。私は先日江藤の代表作とされる初期評論をざっと読んだのですが、小林秀雄とそのエピゴーネンに対する批判を除けば、有益な文章はほとんど見出せませんでした。後年のフォニィ論にしても、自分の気に食わないタイプの小説を「フォニィ」と呼んで勝手におとしめているだけ、という印象を受けます。
一方、明治を専門にしている人間には自明なのですが、「戦争は罪悪である」という思想は、キリスト教徒や社会主義者に限らずいくらでも出てきます。さかのぼれば春秋宋の向戌、アテネのアリストパネスにも(それらの影響を受けた明治人もいます)。
まさか彼らまでアメリカ軍に洗脳されていたとは、いくら非学問的な江藤淳でも言えないでしょう。
どうも真相は逆で、「戦争は罪悪でない」という思想こそ、人工的に上から植え付けられた洗脳、不自然な思想のような気がします(小林秀雄の「戦場は楽土である。兵士は仏である」という、全集から抹消された文章などはその際たるものです)。
一応、江藤淳についての調査は続行します。今度は誤読しないようていねいに。