貨幣論関係で気になっている作品をもう一つ。「永日小品」は身辺雑記や回想を文庫本で各3ページ程度の小品につづった短編集ですが、中には変わったものもありまして。「金」は漱石の貨幣論です。青空文庫より引用。
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「もう少し人類が発達すると、金の融通に制限をつけるようになるのは分り切っているんだがな」
「どうして」
「どうしても好いが、――
「そうして、どうするんだ」
「どうするって。赤い金は赤い区域内だけで通用するようにする。白い金は白い区域内だけで使う事にする。もし領分外へ出ると、
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要は、器械的な労力の記号にすぎない金が、精神界を撹乱するのが気にくわない。で、器械的の労力は物質界にしか通用しないようにしなければならないということ、らしいです。
なんとなく柄谷行人の地域通貨論を連想させますが、柄谷がこの小品に言及したことはないようです。もっと昔だと確か中村光夫が言及していましたが、この論法だと精神界の住人(作家とか哲学者とか)は物質的な商品が手に入らず、餓死するはめになる、と一蹴していました。
しかし、捨てさるには惜しい思いつきです。私も以前、『明暗』と結び付けて観たりしたのですがどうもうまくいきませんでした。