夏目漱石『行人』の主要人物、長野一郎は言いました。(青空文庫より引用)
「死ぬか、気が違うか、それでなければ宗教に入るか。僕の前途にはこの三つのものしかない」
近代知識人の苦悩を凝縮した言葉だとか言われています。
しかし、実際に自殺した知識人は確かにいますし、宗教に入ったりおかしくなった人もいるにはいますが、どれにもならずに長寿を全うした知識人(少なくとも文学者)は大勢います。
彼ら長寿文学者のすべてが、近代の苦悩を超越した超人……ということはないでしょうし、全員が苦悩と無縁な能天気だった……というのも考えられません。
ということは、道はあるのです。四つか五つ、もしかしたら六つの道が。
「宗教」や「気が違う」という言葉をどれほど拡大・縮小解釈するかにもよりますが。