核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

村井弦斎「石油師」(『文車』(1906)収録)

 1906(明治39)年刊行の短編集『文車』の巻頭に収録されたSF短編です。初出は今のところ不明。
 親から譲られた三四十万円の財産を油田探しで使い果たし、山師呼ばわりされるほど落ちぶれた男、堀井沸蔵(ほりゐわきぞう)。その数少ない理解者であるお艶嬢は、沸蔵の顕微鏡を五百円で買い取ります(例によって、彼女も科学マニアなのです)。
 堀井はその金で無線電信の研究に取り掛かります。通信機ではなく、宇宙間に存在するエーテルに波動を起こし、地中の石油を探知する発明。
 周囲の無理解にもめげず、堀井はこの発明で見事油田を掘り当て、米国のスタンダードすら凌駕する石油大王となり、お艶嬢を妻に迎えるのでした。
 …1887年のマイケルソン・モーリーの実験をきっかけに、エーテルが波動を伝えるという説はすたれていったわけですが、まあ昔のSFだし。石炭から石油へと燃料が交替しつつあった時期の産物なのでしょう。そういえば、遅塚麗水の「初鮭」も石油ネタだったなあ。