核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

大江健三郎『世界の若者たち』「日本の若者たち(3)北小路敏」(1961)

 原子力が未来のエネルギーとして期待されていた1961年。大江健三郎は原子科学者夫妻にこう発言しました。

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「大江 科学はあまりできなくても政治力のある研究者が二、三人いれば、そういう人たちが政治家とたたかって原研をよくするかもしれない。理学部出身の全学連幹部を、原研に入れるといい(三人大笑い)。」
 (大江健三郎「同世代ルポ35 若き原子科学者夫妻」
  東海村原子力研究所 近藤達男 靖子さん
  『毎日グラフ』1961(昭和36)年9月3日号)
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 なんで全学連幹部を原研に入れるといいと大江が考えたのか、2015年の今日では理解できない人が大半だと思います。実は私も、このルポと同じシリーズの(近藤夫妻との対談は(21)です。『毎日グラフ』初出は現在未見)、全学連書記長の北小路敏との対談を読むまで理解できていませんでした。以下が全学連幹部の意見です。


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 大江 日本人民共和国が、どのくらいハッキリ見えているのですか。
 北小路 まず、経済恐慌が起こって、弾圧された労働者が立ち上がる。自衛隊が銃を向ける。街頭の小ぜり合いで人が死ぬと(引用者注 対談中にもあるように、樺美智子さん死亡事件の直後です)、大衆の正義の抵抗がもり上がる。自衛隊の中で命令拒否がおこって、反乱または中立の形で拡大する。そこで、その中の農民、労働者の息子を、こっちにいただいちゃって―(略)ぼくらの武装ってのは、火焔ビンなんてチャチなんじゃなく、軍隊工作にあると思うんです。
 大江 あと何年くらいで?
 北小路 内外の情勢の見通しと、共産同盟の成長にかかっていると思うけど…。まあ、何年といえるくらい近いと思う。万年恐慌論だとか、原水爆時代に軍隊の反乱なんて古いっていわれるけど、それは人間の本質をみない考え方ですよ。
 (大江健三郎『世界の若者たち』「日本の若者たち(3)北小路敏」 1961 34~35ページ)
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 全学連幹部がこういう人間だと知った上で、原研に入れるといいと大江は発言していたわけです。
 「火焔ビンなんてチャチなんじゃなく」「原水爆時代に軍隊の反乱」による「日本人民共和国」をめざす人間に。
 冗談で済ませるには悪趣味すぎます。ご自分が50年前にどういうふうにして生きてきたか、彼は記憶しているのでしょうか。