核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

芥川龍之介『上海游記』より「十四 罪悪」

 『坂の上の雲』なんかには絶対出て来ない、日露戦争の暗部。青空文庫様より転載。

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 青蓮閣なぞと云う茶館へ行けば、彼是かれこれ薄暮に近い頃から、無数の売笑婦が集まっています。これを野雉イエチイと号しますが、ざっとどれも見た所は、二十歳以上とは思われません。それが日本人なぞの姿を見ると、「アナタ、アナタ」と云いながら、一度に周囲へ集まって来ます。「アナタ」の外にもこう云う連中は、「サイゴ、サイゴ」と云う事を云います。「サイゴ」とは何の意味かと思うと、これは日本の軍人たちが、日露戦争に出征中、支那の女をつかまえては、近所の高粱カオリャンの畑か何かへ、「さあ行こう」と云ったのが、濫觴らんしょうだろうと云う事です。語原を聞けば落語のようですが、何にせよ我々日本人には、余り名誉のある話ではなさそうです。
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