核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

シャンタル・ムフ『政治的なものについて 闘技的民主主義と多元主義的グローバル秩序の構築』明石書店 二〇〇八

 「政治的なもの」(”The political")の本質は何か。ムフによればずばり「敵対性」です。
 それを忘れた政治談議が甘っちょろいのみならず、危険でもあることをムフは再三に及んで批判します(実は吉野家コピペ風に書こうと思ったのですが、今時通じないと思ってやめました)。
 よーし自由主義が冷戦に勝ったぞ、歴史の終焉だぞ、もう左右の対立なんて古いぞ、といった「ポスト政治」的な言説が欧米では主流らしいのですが、ムフにはもう見てらんないわけです。おめでてーなと。
 むかしナチスの理論家シュミットが指摘したような、「友」と「敵」の相容れない対立。それは冷戦後でも変わってないじゃねーか、新自由主義に対するテロという形で現れてるじゃねーか。もっと殺伐とした現実を見るべきなんだよ。
 シュミットの前提を認めつつ、シュミットの結論(敵は殲滅すべきというナチス的理論)を否定するムフに言わせれば、「闘技的民主主義」、これが目指すべき道です。
 テーブルの向こうといつ喧嘩が始まってもおかしくない、そんな「対抗者」との「闘技」。最終的に仲良く合意をめざす「討議」とは区別して、ムフは「闘技性」("agonism”)の語を用いています。
 しかしたとえばイスラム原理主義者と、いかにして「闘技」的な関係を築くのかは、少なくともこの本では言及しきれていません。菅原のような英語素人は、『闘技学』の邦訳を待ちつつ本書を読み込んでいくことにします。