ファイルを取り出してみたところ、最初のこの作品で論を書いたのは二〇〇四(平成一六)年。思えば長いつきあいです。
写真は絵のように美しくあるべきか、鏡のように真を写すべきかをめぐって、二人の写真家がカラー写真の発明を競争する物語。反戦論とはかかわりがないため博士論文には入れなかったのですが、今回本文を読み返してみて、単純な勧善懲悪譚ではないことに気づきました。絵のような美しさを主張する白黒派にも、弦斎は一応の幸福な結末を与えているのです。
もう一つ見落としていたのは、写真館の一つが「水月館」で、主人の名前が早取儀助。これだけあからさまな名詮自性なのに。「迫真か速度か」といった対立軸も、次の論文には必要なようです。