核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

マルクス・ガブリエルのムフ批判 その2

  「ムフが批判しているハーバーマスに、あなたは近い」という斎藤幸平氏の意見に、マルクス・ガブリエルはこう答えます。

 

   ※

 ムフの主張は、社会全体を暴力的なものにしたいと言っているのと同義です。

 暴力と敵意を欲しているのなら、トランプに投票すべきだと思う。ラディカル・デモクラシーの論客たちが望むものを、トランプが与えてくれているのですから。彼らの定義にならえば、トランプの政治こそが真の民主主義だということになってしまいます。トランプがムフの本を読んだら、「そうそう、私は政治を正しくやっているんだよ」と言うに違いありません。

 ムフたちの主張が根本的に間違っているのは、理性と感情を対置している点です。

 (二一七~二一八頁)

   ※

 

 ……きわめて浅薄な理解に基づく、悪質な印象操作です。

 ムフは、「暴力と敵意は存在する」と言っているのであって、暴力と敵意を欲しているわけではまったくありません。かつてブッシュJrの戦争に対してムフが反対の意を表明したのも、むきだしの暴力と敵意の発露に反対すればこそです。

 ムフがシュミットに言及するのも、シュミットの「友ー敵関係は実在する」という事実認識に同意しているからであって、シュミットの、「ゆえに敵は殲滅せねばならぬ」という結論に共感しているからではありません。

 心配になってきました。ガブリエルという方、あのわかりやすいムフすら読解できないようで、過去の存在論を一新する新実在論なんてものが本当に可能なのでしょうか。