二葉亭四迷の『浮雲』(一八八七~九一)から約百二十年。敗戦をはさんで前期六十年と後期六十年。『浮雲』以来の小説の主題は書き終えられたというご主張です。
いくつもの「〇〇の終焉」の中に、「戦争の終焉」と題する章もありましたが、戦争そのものがなくなるという趣旨ではなく、戦争を語る小説が書きつくされたという意味のようです。
私は近代日本文学の起源を、『浮雲』ではなく、矢野龍渓『経国美談』(一八八三~八四。川西著ではふれられていません)に置いているので、小説が終わったとは全く思いません。民主主義でない国で民主主義を、平和でない国際社会で平和を実現するにはどうしたらいいか。必ずしも小説や文学の枠内で片付けるべき問題ではないにせよ、『経国美談』が提示した問題はいまだに解決していません。