核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

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 歌舞伎『女浪人』には、原作には出てこない西園寺公望(さいおんじきんもち)をもじった名前の公卿が出てきます。上演当時の前総理大臣であり、二か月後にまた総理になる大物政治家です。で、

 

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 歌舞伎座の一番目で羽左衛門が西園寺侯に扮するにつき侯の平生やら服装などを尋ねに伺候するとお前は能く私の女と関係して居るから態々(わざわざ)聞に来るにも及ぶまい其れより詳い事は新橋の桃子に聞くがよいと一本やられて流石の羽左衛門二の句が次げず

 (『都新聞』一九一一(明治四四)年六月七日)

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 この劇に協力したのは西園寺だけではなく、歌舞伎座の「二階の西洋間は例の志士の遺物陳列で幕間は雑踏し居れり」「一番目の「女浪人」は動きの多いものとて面白く背景も総て写生なり」とも、同じ「芝居と遊芸」欄にあります。志士の遺族からの協力も多く、お金のかかった芝居だったのでしょう。

 そうした、現実を模倣するという意味のリアリズム、「写生」は果たして、芸術性に貢献したか。少なくとも、明治政府への批判という原作のテーマは、歌舞伎台本では骨抜きになっています。

 それにしても、『都新聞』は役に立ちます。映画『勤王美談 女浪人』の情報までは入手できませんでしたが。