近代日本文学に少しばかり通じている以外は、私は何のとりえもない人間でして。
数多い苦手なジャンルの一つに、歌舞伎があります。テレビで観たことさえありません。で、ちょうど榎本虎彦作、中村芝翫主演の、『女浪人』の二年前に同じ歌舞伎座で上演された『経島娘生贄』の論文がCiNiiで読めたので、参考にさせていただきました。
清盛の娘で、芝翫演じる小枝が人柱となって命を落とした後、早替わりによって芝翫が重盛となり、父清盛の悪行を諫めて幕となる劇だそうです。
芝翫によれば、小枝が死にっぱなしでは観客が納得しないこと、小枝と同一の役者が重盛となって清盛を責めることで、劇を落着させることができたと語っています。
『女浪人』では億川(徳川)将軍とお信が同じ芝翫で、将軍が朝敵と認定された次の幕でお信が「億川の為に」と言いながら撃たれるわけですが、同様の劇作法が働いているのではないでしょうか。