核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

フロイト「女性同性愛の一事例の心的成因について」(『フロイト全集17』) その3

 フロイトが創始した精神分析というのは、夢の聞き取りと対話を通して相手の無意識を探るというものです。そこでフロイトが遭遇した、「分析技法について興味深い問題」(二六二頁)とは。

 

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 一時期、治療を開始してほどなくのことだが、少女が一連の夢の話を持ち出すことがあった。それらの夢は、夢にふさわしく歪曲されており正確に夢の言語で語られながらも、容易かつ確実に翻訳できるものだった。ただし、そこで解釈された夢の内容には眼を惹くものがあった。それらの夢は、対象倒錯が治療によって快癒することを予兆し、そのことで彼女に開かれる展望への喜びを表現し、男性に愛され子供をもつことへの憧憬を告白し、従って望まれる変身への喜ばしい準備として歓迎できるものだった。

 (二六二頁)

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 夢分析の通りなら好ましいのですが(フロイトにとって)、覚醒状態の彼女の言とは食い違うものでした。

 

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 男の人とはーいささか侮蔑的に彼女は言うのだったーまあ、なんとかやっていけるでしょう、敬慕する婦人の例が示しているように、いざとなれば男性、女性と同時に性的関係を持つことだってできるのです、と。

 (二六二頁)

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 果たして彼女の本音は夢かうつつか。フロイトは宣告します。

 

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 私はそんな夢は信じない。それらは、虚偽であるか偽善であり、あなたの意図は、ちょうどいつもお父さんにそうしてきたように、私を欺くことにあるのだ、と。私は正しかった。こう説明して以降、その種の夢は現れなくなった。

 (二六二~二六三頁)

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 嘘をついているのは彼女の意識ではなく夢のほうだとフロイトは判断したわけです。

 「ということは、無意識ですら嘘をつくことがありうるわけだ」(二六三頁)、夢分析という手法自体の信憑性が怪しくならないかと思うのですが、フロイトはさらっと流してます。夢は無意識そのものではないとか、「われわれの分析の結果に対する信頼が動揺するとかいうことは、問題にならない」(二六四頁)とか。

 もうちょっと深刻に受け止めるべき問題だと思うのですが、長くなったのでいったん切ります。