核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

フロイト「女性同性愛の一事例の心的成因について」(『フロイト全集17』) その1

 フロイトの戦争観に私が満足できないことは前回述べました。今回は戦争観から離れて、精神分析家としてのフロイトを見てみようと思います。

 「社会的地位の高い家庭出身の美しく聡明な十八歳の少女が、約十歳年長の「その種の世界出」の婦人の後を追い回し、その際に示した情愛のせいで、両親の機嫌をそこね心配をかけることになった」(二三七頁)んだそうで。父親との葛藤のすえ自殺未遂まで引き起こし、両親は医者(つまりフロイト)に相談し、娘を正しい軌道に戻すという仕事を託したわけです。フロイトは居心地の悪い思いを抱きつつも引き受けます。

 なんで居心地が悪いかというと、困ってるのが本人じゃないからですね。

 

   ※

 不利な要素と評価されるべきものに、次のような事実があった。この少女は決して病人ではなかったー彼女は内的な理由で苦しんでいたのではないし、自分の状態について苦しみを訴えていたわけでもないーという事実

 (二四二頁)

   ※

 

 当人が病気と思ってない同性愛を果たして治せるものかどうか、自信なさげに分析をはじめるフロイト。父親への反抗心が由来だとか、いかにも精神分析理論らしい見立てをするのですが、彼女の反応は。

 

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 一度私が、理論の中でもとくに重要で、彼女にもそのまま当てはまりそうな部分を説明した時、彼女は真似しがたい口調で、「まあ、なんて興味深いことかしら」と口にしたーまるで、美術館を案内されている彼女が、自分には全くどうでもよい陳列品を手持ち眼鏡で吟味する時のように。

 (二六〇頁)

   ※

 

 どうでもよいと思われてます精神分析理論。フロイト自身は、この態度は父親への復讐心をフロイトに転移したものだとか解釈してますが。

 なんか、不謹慎にも面白くなってきたので、もうちょっと読解を続けたくなりました。いったん切ります。