宮本百合子といえば、戦時中も獄中で非転向を貫き、戦争協力に加わらなかった良心的な人、というイメージがあるのですが。
その宮本百合子が戦後に刊行した、『歌声よおこれ』中の、「政治と作家の現実」にはこうあります。以下、青空文庫よりコピペ。
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ソヴェトの社会はその諸現実でレーニン、スターリンの時代と経てきた。スターリンの文体は、その明確さ・簡明さ・溢れる生命力の美で、言語芸術の領域に新時代を画している。第二次大戦中の十月記念日に、メーデーに、スターリンがおくった激励の挨拶の、あの人間らしい暖かい具体性、肺腑にしみ入って人々にソヴェト市民たる価値と歓喜とを自覚させるあの雄勁なリズムは、ソヴェト市民が、誇りとするにたりない詩であるだろうか。雄々しくその線を守って倒れた七百万人の生命とともに、それをもったことを
日本の作家にとって、眼に浮ぶ涙なしに、このページは書けなかった。
初出:「文学」1947(昭和22)年3月号
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こっちが泣けてくるわい。かつてゼミで『伸子』を読み、それなりに感銘を受けた身としては。『伸子』で見せた理想主義も、非転向も貫いた意志も、結局はスターリン礼賛に至る道だったかと思うと情けないです。
もちろん、福田恒存や野間宏や宮本百合子だけがスターリンを賛美していたわけではありません。「偉大な指導者さま」や「教祖さま」への帰依なしに生きていくことの困難を思い知らされます。ほんとうの意味での戦争への抵抗とは、内なる権威主義との闘い、であると思います。