核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

弦斎の小説が千篇一律だとは思いませんが

 どうも弦斎の作風は、結婚で作品を終わらせることにこだわりすぎな気がします。作中でカップルが一組も結婚しない『食道楽』は、むしろ例外なのです。

 トロフィーワイフという言葉があります。弦斎がそれを知っていたかどうかまでは知りませんが、貧しい青少年が苦難の末に大発明をなしとげ、その「報酬」として聡明で美しいお嬢様と結ばれる…………といった展開は、弦斎の小説のパターンの一つをなしています。

 『深山の美人』は女性が主人公ですが、当世風の軽薄な「今野小才治」(いまのこさいじ)という男性の求愛を拒絶し続けた末、古風で堅実な「道尾亨」(みちおとおる)という男性と結ばれるという、寓意が見え透いているにもほどがある作品です。教訓小説と受け取られてもしかたがありません。

 私もそうした弦斎作品の「構造」が好きなわけではなく、そこに至るまでのディテール、仕掛けの多様さが好きなわけですが。『深山の美人』は、その期待に応えられませんでした。つくづく惜しい作品です。