『ドラえもん』の一挿話。怪作かつ快作です。このまんがで、子供の頃に「どくさい者」という存在とその恐ろしさを知った方も多いのではないでしょうか。
オチは有名だと思いますが、いちおう伏せて紹介します。コミックスは手元にないので記憶にたよって。
いつものようにジャイアンになぐられたのび太。「どこかにひっこしていかないかなあ」というのび太のつぶやきを聞きとがめ、ドラえもんがスイッチを出します。
未来のどくさい者が使う、気に食わない者を消してしまえる道具。
「な、じゃま者は消してしまえ」とどす黒く微笑むドラえもんと、「消すのはかわいそうだよな」と悩むのび太。しかしまたジャイアンに追い詰められ、ついにのび太はジャイアンを消してしまいます。剛田武は最初から存在しなかったことになりますが、今度はスネ夫がなぐりにきます。スネ夫も消すとまた次のいやなやつが現れ……ついにのび太は「誰もかれも消えちまえ」と言いながらスイッチを押してしまいます。
ドラえもんもしずかちゃんも、誰も彼も消えた無人の街。いったんは頭をかかえながらも、開き直ったのび太はぬすんだケーキやまんがを抱え、「ぼくはどくさい者だ、ばんざい!」と笑うのでした……。
僭主(独裁者)であることの「幸福」については、古くはプラトンの『国家』でも語られているのですが(あっちは自分を消せる道具ですね)、迫力はドラえもんのこの話に及びません。
ほんと、私がどうにか犯罪者にならずにすんできたのは、この話をはじめとする『ドラえもん』の感化が大きいようです。いつか単著『独裁の止め方』を出せる時が来たら、ぜひ一章を割きたいものです。