田中芳樹『七都市物語』(早川書房 一九九〇)中の一エピソード。
六都市連合軍から、自都市ブエノス・ゾンデを守り抜いた軍人ノルトは、戦勝の直後に、かねて恨みのあった、自都市の独裁者ラウドルップを暗殺します。おのれの死も覚悟の行為であったのですが、意外にも親衛隊やラウドルップ支持者はノルトの行為を英雄的とほめたたえ、新たな指導者になってくれるよう懇願します。独裁を支える者たちの薄気味悪さを感じたノルトは別の都市に亡命するのですが、そこでも彼の非凡な軍事能力はほってはおかれないのでした。
未来小説なので極端な例ではありますが、考えさせられます。独裁者を暗殺して、はいおしまいではなく、独裁に依存し支えてきた者たちが根本的に変わらない限り、独裁体制そのものはなくならないのです。