作者イタロ・カルヴィーノはイタリアの幻想作家で、原著は1972年だそうです。米川良夫訳。
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さて、これよりゼノビアの都について申し上げましょう。この都の不思議は、すなわち、乾いた土地に建つ都市(まち)でありながら、この上なく高い柱の上にそそり立っているということでございます。家々は竹とトタン板でつくられ、それぞれ止り木に似た出窓や廻廊をいくつとも知れずそなえておりますが、その家はまたそれぞれ異なる高さの、縦横に交叉する横板の上に置かれて、それぞれに脚榻(きゃたつ)や吊橋で連絡し合い、屋上には円錐形の天蓋で覆われた展望台、貯水槽、風向板を頂き、さらに滑車や釣竿や起重機などが突き出ているのでございます。
いったいどのような必要か、戒律か、あるいは欲望なりが、ゼノビアの創建者たちを動かしてこのような形を彼らの都市に授けさせたのか、今では記憶するものとておりません。
(第2部 「精緻な都市 2」 209ページ)
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・・・こち亀のインチキ不動産ですか。こんな感じで、どう考えても実在しない数々の(解説によると55)の都市が言葉で紡ぎ出されていきます。すべてが水道管からなる都市アルミッラ、年ごとに移動するサーカス都市ソフローニア、鉄の網で虚空に浮かぶ都市オッタヴィア・・・。
最初はさりげなく、途中からは開き直ったように「アルミニウム」「心境小説」「飛行場」といった、中世人らしからぬ用語や物体が出てきます。ネタがつきたわけではなく、小説の形で都市論を展開するのが著者のもくろみだったのでしょう。
カルヴィーノの代表作には、タロットカードを題材とした冒険物語『宿命の交わる城』なんてのもあります。いずれ必ず紹介させていただきます。