反戦小説だの平和主義小説だのって、どうせ「戦争はやめましょう」「暴力はいけません」ってお説教ばっかりで、今読んでも全然面白くないんじゃないの?
そう思われる方は多いと思いますし、現に私もゼミの発表時にそうしたご意見を受けたことがあります。
確かに、平和主義なんだけど面白くない作品というのもあることはあります。どんなジャンルも大半は駄作なのです。しかし、成功した平和主義小説のいくつかは、日露戦争(1904~05年)のさなかにベストセラーとなっていますし(木下尚江の『火の柱』『良人の自白』が典型です)、今(2012年)に読んでも十分「面白い」のです。
正義のヒーローが悪人をやっつけるたぐいの話も確かに面白いし、私もそういうのも好きです。
しかし、成功した平和主義小説の「面白さ」は、それらとは別の次元にあります。暴力を頼む悪人をさらに大きな暴力でねじふせるのではなく、そうした暴力の連鎖そのものに対して、「それ、なんかおかしくないか」と突っ込みを入れ、我に返らせる面白さ。