核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

デカルト 「平和の訪れ」 (1649 引用は『デカルト著作集 4』 白水社 1973 より)

 書物の学問に限界を感じ、「世間という大きな書物」を読むために従軍した哲学者、というのが一般的なデカルト像かと思います。
 そんなデカルトが死の直前に、平和(三十年戦争終結)を題材に舞踊劇を書いていたことは、あまり知られていないのではないでしょうか。
 訳者の川俣晃自氏には申し訳ないのですが、韻文の詩を無理やり七五調に訳したために、かなり読みづらくなっています。訳者は違うけど、ヴェルギルウスの『アエネイス』も読んでてつらいものがありました。
 しかし、内容はさすがデカルトの絶筆だけはあります。「このへい和こそおおいなる かみのめぐみと知れよかし」といった紋切型の念仏平和主義的文句もあるものの、「逃亡兵」、「片輪の兵士」(差別語の使用をお許しください。412ページを見ればわかりますが、デカルトが罵っているのは傷痍軍人ではなく戦争礼賛者です)、「産を失った百姓」(これも差別語かもしれませんが、デカルトが批判しているのは農民から略奪する者たちです)といった、被害者側から見た平和の訪れを描いている点が特徴です。
 
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 ひとみなの知れることゆえ かみかけてちかいもせねど いくさとはまがしきものぞ
 われらかくおどりはすれど ひとびともさとりたまわん ひやく姓らこころおどらず
 たたかいのわざわいしげく うまもなくうしもおらねば はたけをもつくるすべなく
 (以下略。414ページ 「産を失いて第九のアントレを踊る百姓らの歌」)
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 ・・・たしかに戦争が終わったからといって、即座に生活がよくなるわけもないのです。こういう庶民の実感を、スウェーデン獅子王グスタフ・アドルフの娘、クリスティーナ女王に献上する劇(「御生誕の日に催されたるバレー 一六四九年」と序文にあります)に書いたことは、もっと評価されるべきではないでしょうか。