核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

松井慎一郎『河合栄治郎 戦闘的自由主義者』(中公新書 2009)より 晩年

 戦時下にあってもファシズム勢力との法廷闘争を続けた河合栄治郎。なのですが、今回は残念な話です。
 公判が開始される直前の1941年2月、河合は『国民に愬う』という論文を書きました。米英との戦争を不可避とし、日独伊三国同盟という「道徳的義務」の貫徹を愬(うった)えた内容です。
 必ずしも現日本政府に迎合、屈服したものではなく、現に出版差し止めにあったとのことですが、より大きなものに妥協してしまった印象は受けます。河合栄治郎はもともと、自由主義者・平和優先主義者ではあっても、絶対平和主義者ではなかったことを思えば、これは妥協というより、彼なりにたどりついた結論なのでしょう。
 かつて彼自身が書いた通り、「波に浚はれずして独り止まることは至難の事」であった。そう考えさせられます。