去る1月15日、私は森銑三氏の著作から、『国民雑誌』(1911(明治44)年4月号)を引用し、ある貸本屋の「よく読まれる小説」リストに、村井弦斎の『食道楽』が入っていないことを残念がりました。が、よく考えたらあさはかだったかもしれません。
『食道楽』を、大原くんとお登和嬢のラブストーリー部分だけ読み、終わったらさっさと返す、という読者は少ないと思うのです。むしろレシピ部分が『食道楽』の本質であって、貸本屋向けの商品ではなかっただけの可能性があります。
大正期の『婦人世界』でも、「弦斎夫人の料理談」は長期連載でした。弦斎の論説よりも前に来るくらいに…。