核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

宇都木章「春秋時代の宋の貴族」(『古代学』1969年8月号)

 春秋時代を通じて、南北和平に最大の効果を挙げたといわれる、「弭兵の会」(軍備廃絶会議)を提唱した、向戌とのその時代背景を追った貴重な論文です。
 『春秋左氏伝』で前歴を見ると、向戌という人はけっこう腹黒キャラでして、仲の悪かった太子を間接的に謀殺したり、君主の寵姫からわいろを受け取ってその子を擁立したりと、えげつないことをやっています。
 そういう人なので、軍備廃絶会議も「以て名を為す」つまり売名行為であったのではないか、という解釈も成り立つわけです。宇津木論はその線から向氏と他家の抗争の歴史を綿密に追っています。
 実証的な研究であり、確かにその通りだとは思いますが、それだけではないと思うのです。戦争や陰謀で名を挙げようとする者はいくらでもいたのに、軍備廃絶で名を挙げようとしたのは向戌だけだった。ということを考えると、事は向氏というよりも向戌個人の人間性の問題に帰着するように思うのです。
 近代に引き寄せた見方かもしれませんが、私は福地桜痴を連想します。幕末には強硬派の幕臣、明治前期には政府の御用記者という無節操な前半生を送っていながら、晩年になって突如として反戦小説を書いた福地桜痴