核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

芥川龍之介『澄江堂雑記』より「将軍」

 青空文庫様より。

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 三 将軍

 官憲くわんけんは僕の「将軍しやうぐん」と云ふ小説に、何行なんぎやうも抹殺を施ほどこした。処が今日けふの新聞を見ると生活に窮した廃兵たちは、「隊長殿にだまされた閣下連の踏台ふみだい」とか、「後顧するなと大うそつかれ」とか、種種のポスタアをぶら下げながら、東京街頭を歩いたさうである。廃兵そのものを抹殺する事は、官憲の力にも覚束おぼつかないらしい。
 又官憲は今後と雖も、「○○の○○に○○の念を失はしむる」物は、発売禁止を行ふさうである。○○の念は恋愛と同様、虚偽きよぎの上に立つ事の出来るものではない。虚偽とは過去の真理であり、今は通用せぬ藩札はんさつの類たぐひである。官憲は虚偽を強しひながら、○○の念を失ふなと云ふ。それは藩札をつきつけながら、金貨に換へろと云ふのと変りはない。
 無邪気なるものは官憲である。
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 伏字批判もまた伏字なしにはできないという矛盾。