核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

坂井孝一『承久の乱 真の「武者の世」を告げる大乱』中公新車 二〇一八

 『応仁の乱』がヒットしたおかげか、これまで注目を集めなかった時代に光が当たるのはありがたいものです。
 時は鎌倉時代、一二二一年。二年前の源実朝暗殺による朝廷・幕府関係の悪化を受けて、後鳥羽上皇北条義時打倒(本書によれば、倒幕が目的ではないようです)を目的として起こした戦乱。結果は北条氏軍の勝利に終わり、後鳥羽上皇を含む三上皇が配流されました。
 私はつねづね三上皇の一人、乱に反対だったという土御門上皇に関心を持っていまして。私がというよりも明治の平和主義者である木下尚江が、大々的に土御門上皇の人格と和歌をたたえるエッセイを書いています。彼の場合は土御門礼賛もさることながら、後鳥羽、ひいては戦乱を引き起こす朝廷そのものへの遠回しな批判を含んでいたのかも知れません。
 本書では残念ながら、土御門関係の記述はほとんどありませんでした。ただでさえヒーロー不在の乱がさらに地味なことに。坂井氏の研究によれば、承久の乱の激戦は『平家物語』の「橋合戦」や宇治川先陣争いの創作にフィードバックするほどだったそうですが。
 ヒーローらしき存在といえば、源翔(みなもとのかける)という勇将。敗北を悟った後鳥羽上皇に見捨てられた後も、名乗りを挙げて鎌倉方と戦い続け、生死不明(おそらく自害)とのこと(一九三~一九四ページ)。かっこいい名前といい、短編歴史小説の題材ぐらいにはなりそうです。大河ドラマはきついか。