核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

「戦争は人を殺すことである」か?―内村鑑三への疑義

 松元雅和『平和主義とは何か』(中公新書 二〇一三)より引用。

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 戦前日本の平和主義者内村鑑三が言うように、「戦争は人を殺すことである、璽(しこ)うして人を殺すことは大罪悪である」(『萬朝報(よろずちょうほう)』一九〇三年六月三十日付)。これら二つの命題にあえて異を唱える人はいるまい。
 (三五ページ)
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 で、あえて異を唱えてみようと思います。主に内村の一つめの命題に。
 芥川の「将軍」にも伏字まみれの中にそれらしい記述がありましたが、単純な個人レベルの殺人と戦争とでは明らかな違いがあるわけです。前者は少なくとも自分の意志に基づいており、従って行為者自身が罰せられるべきなわけですが、後者は上からの強制による殺人なのです。自らは安全な場所にいて他人に人を殺させることは、人を殺すことよりも大きな罪悪なのではないでしょうか。
 問題を整理すると、「大罪悪」を問われるべきは兵士なのか、兵士を戦場に送りこんだ最高責任者なのかという問題です。内村は戦争を「人を殺すこと」と定義したために後者の責任を問えず、徴兵拒否の相談に来た若者に徴兵に応じるよう勧めるなど、私に言わせれば不徹底な態度をとりました。
 私としては、「戦争は人に人を殺させることである、そしてそれは人を殺すこと以上の大罪悪である」と言い換えたいところです。上記引用と同じ第二章で、「兵士に責任はあるか」という問題を論じた松元氏も、おそらくは合意してくださるのではと思います。