核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

泉鏡花「琵琶伝」

 初出は『国民の友』1896(明治29)年1月とのこと。今回は青空文庫で読みました。

 小田切秀雄「日本反戦文学史―素描―」でその存在を知ったのですが、反戦文学…なのかこれ?という感じです。

 

 陸軍尉官近藤重隆と、お通の新婚夫婦。お通には謙三郎という相思相愛の従兄弟がおり、その仲を引き裂いた近藤に従おうとしません。

 一方、謙三郎は徴兵を受けており、日清戦争への出征の時間が迫っています。しかしお通への未練と叔母(お通の母)の懇願により、入営前に命がけでお通に会いに行くことを決意します。

 脱走の上に邪魔する使用人を殺した罪により、謙三郎は銃殺されてしまいます。

 発狂状態となったお通は謙三郎の墓前で近藤の喉に噛みつきますが、自らも近藤が最期に放った銃弾に倒れます。

 関係者たちが死に絶えた後。かつて謙三郎とお通が飼っていたオウムの琵琶が、「ツウチャン、ツウチャン、ツウチャン」と、しきりに名を呼ぶ声だけが響くのでした…。

 

 軍隊の非人間性を描いた反軍小説とは言えそうですが、日清戦争そのものへの批判があるわけではないので、反戦小説といえるかは疑問です。むしろオウムの声という、主体なきパロールがどうとかいう方向の方が面白かったり。